クラウド会計のメリット【税と経営】連載記事アーカイブス

第二回クラウド会計のメリット

第2回 クラウド会計のメリット【税と経営】連載記事アーカイブス

クラウド会計ソフトのメリット

第一回【クラウド会計ソフトとは】では、本連載で解説するクラウド会計ソフトについて、次の要件を満たすものと定義させていただきました。

  1. パソコンなど特定の端末に会計ソフトをインストール不要
  2.  銀行やクレジットカード等の取引明細を自動取得
  3.  操作端末を選ばず複数人での共有が可能
  4.  請求書の作成機能を実装し、発行、消込、未回収残高の管理が可能

今回は、上記の定義にもとづき、クラウド会計ソフトのメリットについて解説していきますが、1、3については次回以降に詳しく述べるとして、今回は主に2、4に関連したメリットを取り上げたいと思います。

帳簿の作成が自動作成される従来の会計ソフトでは一般的に、会計帳簿の作成は金融機関の通帳の明細や請求書、領収書などを目視で確認しながら1件1件、複式簿記に基づいて仕訳を登録していきます。

対してクラウド会計ソフトでは、あらかじめ連携している金融機関との自動同期を設定すれば、日々発生する取引の明細は金融機関からクラウド会計ソフトに自動転記され、会計帳簿は自動生成されます。ただし【会計帳簿が自動で作成】されるためには、注意点があります。クラウド会計ソフトの使用初期に自動で作成されるのは、登録する仕訳のうち【取引の日付】、【収入支出の金額】、そして金融機関に通帳などに記帳された【取引先等の内容】の3つの要素になります。

この3つの要素だけでは、複式簿記の仕訳としては成立しません。収入・支出に伴う相手勘定科目の設定が必要になります。例えば、得意先のA株式会社から売上の入金があった場合には、仕訳の勘定科目以外の部分が完成していますが、損益勘定である【売上高】の勘定科目は自身で設定する必要があります。

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ただし、この勘定科目の設定についても登録の初期段階であれば、【A株式会社】という取引明細について勘定科目が【売上高】であることは、クラウド会計ソフトが判別することはできません。

しかし、翌月以降も【A株式会社の入金は常に売上高】であることが確定しているのであれば、次回以降に取引の明細を取得した際に、【取引の日付】【金額】【取引の明細】だけでなく【勘定科目】についても、自動で推測し作成されます。クラウド会計ソフトは、このようにこれまでの取引状況を学習し、自動判別してくれるのです。

したがって、クラウド会計ソフトの使用開始初期は、一つ一つの取引について勘定科目を設定する必要がありますが、数ヶ月使用していった段階において、新たに勘定科目を設定する必要がある取引は、【新規に発生した取引】のみという事になるのです。

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専門家が感じるもう一つのメリット

クラウド会計ソフトでは、取引明細の通帳の収支の明細をそのまま会計帳簿に取り込むため、基本的には通帳の残高と会計帳簿の残高は必ず一致します。これこそ、大きなメリットだと考えます。通帳の残高と会計帳簿の残高を一致させるというのは、会計帳簿の作成において基本的な作業です。

従来の会計ソフトでの入力は基本的に人が行うため、複式簿記はもちろん会計税務の知識に精通したものが従事したとしても、数字の入力間違いや貸借をあべこべに入力するなど、人為的なミスが少なからず生じます。また昨今は、クライアント側で会計ソフト等に取引の登録作業をしてもらう自計化の流れが進んでおり、帳簿のチェックのみを会計事務所が行う例も少なくありません。

そのようなケースにおいて、取引の明細が正確に会計ソフトに反映されていれば、チェックの手間や帳簿の修正業務の手間は、従来とは比較にならないほど軽減します。

請求書の発行、消し込みの自動化が一番の強み

クラウド会計ソフトのメリットを解説する上で、機能の有効性に比してまだまだ認知度が低いのが、請求書の発行機能、及び請求金額が後日入金された時の消込機能です。これは、クラウド会計ソフト内の請求書発行機能を使用し、請求書を発行します(※クラウド会計ソフトによっては、別サービスで機能連携の場合もあります)。請求書には、【請求書の発行日】【請求金額】【相手先】等の記入をしますが、その登録内容は請求書の作成に伴って会計処理として登録されます。

例えば、B株式会社に対して、税込50万円の請求書を発行した場合には、請求書の作成に伴い、売掛金 500,000 / 売上 500,000(取引相手は B株式会社)という取引の登録がされます。そして、請求から一定期間後B株式会社から入金があった場合には、前述の取引明細の自動同期によって、B株式会社から50万円の入金明細が未回収債権の消込候補として表示され請求書の発行から消込までの発生主義(または実現主義)に基づく一連の会計処理を最小限の手間で実現することが出来るのです。

この請求書の機能を知らない場合には、『クラウド会計ソフトは自動同期によって取得した取引明細を元に会計帳簿を作成するため、現金主義による会計処理しかできないのでは?』という疑問を持つ方も少なくありません。実際にはそうではなく、請求書の発行機能を有効に活用することで、発生主義に基づいた正しい会計処理を効率的に運用していくことが可能なのです。

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今回は、クラウド会計ソフトのメリットについて、【取引明細の同期機能による会計帳簿の自動作成】と【請求書の発行機能からの消込機能】を中心に解説させていただきました。この2つの機能は、従来の会計ソフトを使って会計事務所などで当たり前のように行っていた、人海戦術による会計帳簿の入力や消込作業を大幅に自動化することが可能です(ただし、現金商売であったり請求書の作成に独自の管理システムや表計算ソフトを使用していたりと、メリットを感じにくいケースもあります)。

そして最後に触れておきたいのは、会計帳簿の作成や未回収代金の消込作業が自動化されることによる事務作業の軽減によって、記帳代行サービスの顧問報酬の下落は加速することが予測される、ということです。クラウド会計ソフトのメリットを認識した上で、「会計事務所がお客様に対して提供するサービスはこれからどうあるべきか」という未来志向が必要になるではないでしょうか。

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