クラウド会計ソフトを導入すべき業種や会社の規模感【税と経営】連載記事アーカイブス

第5回クラウド会計を導入すべき業種や会社の規模感

第5回 クラウド会計ソフトを導入すべき業種や会社の規模感【税と経営】連載記事アーカイブス

第5回は、私の事務所でクラウド会計ソフトを導入している業種やサービス、そして会社の規模感について紹介させていただければと思います。と言うのも、最近『クラウド会計』という言葉が認知されつつある中で、会計事務所のサービスとしてクラウド会計を使用する場合に、まずどの様な業種のクライアントにクラウド会計を導入するのが良いのかというご質問をお聞きすることが多くなりました。

ご質問への回答は、どの業種のお客様でもクラウド会計ソフトを導入するメリットは大きいです。ただし、クラウド会計ソフトを導入する為には一定のIT スキルや、感情的なハードルなどが存在するのも事実ですので、今回は事務所での実際にあったクラウド会計の導入事例はもちろんのこと、導入の失敗事例も含めて解説させていただければと思います。

1  クラウド会計ソフトの導入に適したお客様

私の事務所でクラウド会計ソフトを使用している業種で一番多いのは、システムエンジニアやデザイナー、そしてインターネット上で商品を販売するEC サイトを運営する方です。この方々に共通する事は、パソコンを日常的に利用し、お客様との業務遂行についてもインターネットを経由して行う業種といえます。また、クラウド会計ソフトを使用する以前にコミュニケーションツールや、業務データのやり取りについて他のクラウドサービスを日常的に使用しております。そのため、クラウド会計ソフトに限らずクラウドサービス全般についてのメリット、デメリットをしっかり把握されています。

会計ソフトについてもクラウドの方が効率的な業務遂行ができるという確信を持っている方がほとんどであり、クラウド会計ソフトの導入及びその後の会計税務顧問のお手伝いについて、とてもスムーズです。もし、既存のお客様でクラウド会計ソフトの導入を検討するのであれば、まずはクラウドサービスを日常的に使用している方からはじめてみてはいかがでしょうか。

2 クラウド会計ソフトの導入に適した業種

クラウド会計ソフトを導入して最もメリットがある業種は、小売店や飲食店です。クラウド会計ソフトの特徴はすでに解説しておりますが、取引の明細をデジタルで取り込み、会計帳簿を自動作成するため、例えばインターネット上のショッピングサイトを運営している場合にはその取引履歴を、商品の種類や内容などを一つ一つ取り込むことも可能です。その為、使い方によって商品の売れ筋の把握などもクラウド会計ソフトで行うことが出来ます。

また、飲食店というと現金商売のイメージがありますが、現在小中規模の飲食店に導入が広がっている、比較的リーズナブルに使用できるPOS システムなどの取引履歴を、クラウド会計ソフトに取り込む事で、会計帳簿を自動作成することが可能です。例えば、従来であれば一日の売上の合計額を会計帳簿に入力している場合が多いので、一日の売上の明細まで会計帳簿に取り込めるのは大きなメリットであるといえます。

ただし、私の事務所で飲食店にクラウド会計ソフトを導入しているお客様は限られています。 理由は、クラウド会計ソフトの導入によるメリットが大きい反面、飲食店の経営者の多くはクラウドサービス全般に懐疑的な方も少なくないため、クラウド会計ソフトは導入によるメリットの大きさよりも、前述したお客様のクラウドサービスの使いこなし具合で判断すべきだという事を感じています。

3 クラウド会計ソフトの導入に適した会社の規模感

最後にクラウド会計ソフトの導入に適した規模感ですが、こちらは明確に数名くらいというよりも、【経理の専任者がいない会社様に導入するのが良い】と考えています。その為、具体的にはひとりで事業を行っている方から20 名程度の規模になるのではないでしょうか。

まず先に断っておくと、前回解説したクラウド会計ソフトfreee やMF クラウド会計は、会計ソフトの機能としてはすでに数十人~百人規模の会社の経理業務を行うのに不足はありません。ではなぜ、機能に不足がないのに【経理の専任者がいない会社様】に導入をオススメするのかというと、これは私の事務所でのクラウド会計ソフト導入にあたっての失敗談があります。

それは、数ヶ月前の話になりますが、社員が数十人を超える会社の社長様から事務所へのお問い合わせがあり、従来の経理業務が非常に煩雑であり、業務効率を図りたいという事でご依頼を受けました。この会社は経理の専任者が二人おり、この二人にクラウド会計ソフトの使い方の指導や、現在の経理業務全般について、抜本的に見直すことを期待されてのことでした。

業務がスタートすると、経理担当者の二人にクラウド会計ソフトの導入についての考え方についてのレクチャーを行い、クラウド会計ソフトの導入によって、現在行っている会計帳簿の入力作業が大幅に軽減できること。その為、経理業務が大幅に短縮できる旨を説明していきました。

しかし、何度かレクチャーを行いクラウド会計ソフトの仕組みや効果の理解が進むと、暫く電子メールでのやり取りなどが遅延するようになり、その後しばらくして依頼を受けた社長様より『経理の担当二人からの申し出で、私たちにはクラウド会計ソフトは使いこなせそうにありません』という嘆願があり、結局クラウド会計ソフトは導入しないという結論になってしまったのです。

これは私の邪推も多分に入ってしまいますが、経理担当の二人がクラウド会計ソフトを導入することで、ご自身の経理業務が減少し、仕事がなくなってしまう危機感を感じたからではないでしょうか。実は、クラウド会計ソフトを導入する際の一番のハードルは、この論点だと感じています。

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例えば、経理業務の専任者がおらず、総務や人事などの事務全般を行う方の場合にはクラウド会計ソフトを導入することで、経理業務に充てていた時間が大幅に短縮するメリットを感じることが出来るのに対して、経理業務を専任で行う方がクラウド会計ソフトを導入すると、自身が行っていた経理業務を自動化する事で、仕事がなくなってしまいます。経理業務の専任者にとっては会社全体では経理業務の効率化とコスト削減がされる一方で、そのしわ寄せは経理専任者に来てしまうという、個人単位で見ると利益相反が起きてしまうという問題があるのです。したがって、会社全体の業務効率の利益と、担当者単位での業務効率の利益が相反しない規模の【経理の専任者がいない会社様】程度が適切な規模感だといえるのです。

いかがでしょうか?個人的にはクラウド会計によって会計帳簿を自動で作成するという流れは今後も加速していくと考えています。その一方で、クラウド会計が普及することで単純作業の仕事は確実に減少する事は避けられません。その点をどう折り合いをつけて、クラウド会計を導入するかを考え、慎重に判断していく必要があると考えます。

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