クラウド会計ソフトの比較【税と経営】連載記事アーカイブス

第4回クラウド会計の比較

第4回 クラウド会計ソフトの比較【税と経営】連載記事アーカイブス

前回まででクラウド会計ソフトの定義及びメリット、デメリットについて紹介してきましたが、今回は主要なクラウド会計ソフトであるfreee(フリー)とMFクラウド会計(エムエフクラウドカイケイ)の2つについての紹介をさせていただきます。

1 なぜfreeeとMFクラウド会計か?

具体的に2つのクラウド会計ソフトの紹介をさせて頂く前に、複数あるクラウド会計ソフトのうち、なぜfreee とMFクラウド会計のみを取り上げるかを簡単に説明させていただきます。

まず、一番の理由は弊事務所では、執筆時現在(2015年9月)クラウド会計ソフトはfreee とMF クラウド会計を使用してのサービスしか提供していないからです。その為、この2 つのソフトについての使い勝手やお客様の対応については解説が可能ですが、それ以外のクラウド会計ソフトについては、各社のホームページ等で紹介されている表面上の機能の紹介しかできないからです。

では、なぜ弊事務所はfreee とMF クラウド会計しかサービスに使用していないのかを説明させていただくと、まず本連載の第一回目に【本連載内におけるクラウド会計ソフト】を定義させていただきました。 その中の要件に【インターネット経由で、銀行やクレジットカード等の取引明細を自動で取得し会計帳簿の全部、または一部を作成する事が出来る。】を挙げております。

最近『クラウド会計』というキーワードも少しづつ聞かれるようになると共に『クラウド会計ソフト』と言われる会計ソフトも複数登場していますが、多くの会計ソフトはクラウド上で操作を行う事は出来ても、自動同期機能は実装されていないのが現状です。その為、まず本連載内における『クラウド会計ソフトの定義』から外れており、弊事務所でもそのような会計ソフトを使用しておりません。また、自動同期機能を実装しているクラウド会計ソフトであっても、自動同期に対応している連携金融機関が少なかったり、数ヶ月前にリリースしたばかりで会計ソフトとしての基本機能が不十分であったりと、お客様との実務を快適に遂行するには少し役不足の感が否めません。

そのため弊事務所では、現状freee とMFクラウド会計の2つのクラウド会計ソフトをサービスに使わせていただいております。もちろんこれは私の個人的な判断ですので、基本機能が十分かそうでないか、感じ方は千差万別だと思いますが、今回は上記の判断において2つのクラウド会計ソフトの解説になっている事をご理解いただければと思います。

2 freeeとMFクラウド会計の特徴

前置きが大変長くなりましたが、事務所で活用しているクラウド会計ソフトのfreee とMF クラウド会計の特徴を紹介させていただきます。

◆クラウド会計ソフトfreeeの特徴◆

freee の最大の特徴は、会計帳簿を作成する上での登録画面です。

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複式簿記を極力意識させないように金融機関等から自動で取得した取引の明細は、収入はブルー支出はピンクという視覚に訴えかけるような構造になっています。この登録方法を直感的で登録が行い易いと感じるかそうでないかは、複式簿記の知識の有無によっても大きく感想が異なるのではないかと感じています。借方、貸方という複式簿記の仕組みがさほど理解していない、あるいは理解はしていても定着していない方が使用するのであれば、大変使いやすいと感じる一方で、会計の専門家であれば複式簿記の方がわかりやすいと感じる場合も少なくないでしょう。

また、もう一つfreee の特徴があります。それは、会計帳簿の作成の方法が一般的な仕訳日記帳から一つ一つ会計帳簿を登録するという方法ではなく、【自動で経理】【取引の登録】【請求書の発行(又は受取)】という3つの方法から行います。

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3つの登録方法をどう使い分けるかは下記のフローチャート図を参考にいただければと思います。会計帳簿を作成する基本的な発想についてですが、まずは金融機関等のデジタルの取引明細を自動で取得したデータを元に、会計帳簿を作成する【自動で経理】を中心に、その方法で対応できない登録のみを手入力や請求書の発行等によって補完するという発想です。つまり、会計帳簿は全てを自力で入力し作成するものではなく、外部のデジタルデータをfreee 内に持ちよって作成する、ということです。

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結果的には人の手を介在させないことで、人為的なミスを排除し、必要な部分のみ入力や調整をしていきます。これまでの『会計帳簿は一つ一つ、借方貸方を手入力していく』という従来の会計帳簿の作成のやり方を、根底から刷新するような作りになっています。

◆MFクラウド会計の特徴◆

freee に対して、MF クラウド会計は比較的に従来の会計帳簿の作成の流れを踏襲している会計ソフトであるといえます。まず取引の登録画面は、比較的に従来のインストール型会計ソフトとさほど差異を感じずに登録が出来るのではないでしょうか。

※【自動仕訳】と【詳細入力】の画面(下図参照)

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また、freee が極力会計ソフト内での手入力を排除するための作りがされているのに対して、MF クラウド会計では、クラウド会計ソフト内でも手入力での会計帳簿の作成が行いやすいように、仕訳の高速入力の機能があったりと、従来の会計ソフトの作成のやり方を踏襲する形になっています。したがって、複式簿記の仕組みや従来の経理業務が完全に確立されている経理担当者や、会計事務所が使用する場合には、freee と比べれば比較的スムーズに操作方法や使い方が理解しやすいと言えるのです。

3 freee は個人事業主向け?MFクラウド会計は法人向け?

インターネットで検索をするとクラウド会計ソフトについては、freee とMF クラウド会計の比較記事を目にすることが多くあります。その際の論調として一般的なのは、freeeは直感的な操作が可能で複式簿記の知識がなくても会計帳簿の作成が可能であるため、会計知識が乏しい、事業を開始したばかりの【個人事業主向け】、MF クラウド会計は複式簿記の知識を必要とするので、比較的に規模が大きい【法人向け】と結論づけされているのを散見します。

私はこの様な論調の記事を拝見するたびに、2 つのクラウド会計ソフトの上辺だけの操作手順などを確かめたのみで、実際にクライアントに対してサービスを提供していない方が書いた記事であると感じています。

私は事務所で、これまで簡易なお手伝いも含めれば100 以上の個人、法人のお客様に2つのクラウド会計ソフトを使いながらサービスを提供してきました。その経験からすると、どちらのクラウド会計ソフトが個人事業主向け、法人向けと言うよりも、freee は【クラウド会計上級者向け】MF クラウド会計は【クラウド会計初心者向け】であると断言できます。

一般的なイメージですと個人事業主向け=初心者向け、法人=上級者向けという感じるかもしれませんが、それは大きな間違いだと思います。クラウド会計というのは、実際にクライアントにサービスを提供していると解りますが、出来る限り経理の業務を最小限にするために自動化を進めていく事になります。それは言い換えれば、出来る限り人の手を最小限に会計帳簿を作成するにはどの様な仕組みを構築するかを考えることであり、従来の会計帳簿の作成の考え方とは対局にある発想だといえます。

freee はその発想を突き詰めた会計帳簿の作成の仕組みが開発の根本にあるために、従来の会計ソフトの作りからすると非常に奇抜に感じられます。では、なぜそれが個人事業主向けだと論じられるかというと、ビジネスをスタートしたばかりの事業者にとっては従来の会計帳簿の作成の方法を知らないために、最初からfreeeの登録方法がしっくり来るのです。言い換えれば最初からクラウド会計しか知らない為に、初めから会計帳簿をどうやって最小限の労力で作成するかを知っているといえます。いわば初めからクラウド会計の上級者と言えるのです。

対して、従来の会計の流れや作成方法を知っている方にとっては、会計ソフトに数字を手入力しないで会計帳簿を作成するという発想自体が、なかなか受け入れられないと思います。その為、自動同期機能などのクラウド会計ソフトのメリットは活かしつつ、従来の会計帳簿の作成方法も踏襲するMF クラウド会計の方が馴染みやすいのです。いわば、従来の会計に慣れた方がクラウド会計に触れてみる【クラウド会計初心者】に適しているのです。

したがって、私の事務所に多い問い合わせとして『これからクラウド会計を導入したい』という要望がある場合には、個人や法人、事業の規模は問題ではなく必ずお聞きするのは、今現在の経理業務はどのように行っているかです。今まで記帳代行を丸投げで会計事務所にお願いしている場合や、会計の知識に不安がありながら手探りで従来の会計ソフトに手入力を行っている方。あるいは、現在事業が拡大中だが専属の経理担当は置かずに最低限の手間と会計知識で会計帳簿を作成したいというニーズにはfreee をお勧めし、逆にすでに専属の経理担当者がおり、社内での経理の仕組みが確立していて急激な変化を好まないという場合にはMF クラウド会計をお勧めしています。そうすると、結果的には経理業務が試行錯誤というのが個人事業主であり、経理担当者がいて経理業務が確立しているのが法人という場合が多いのです。

4 新たな発想で会計業務を考える必要性

今回は、クラウド会計ソフトのfreee とMF クラウド会計を比較してみましたがいかがでしたでしょうか。2 つのクラウド会計ソフトの特徴や違いについて解説していきましたが、この2 つの違いの差異よりも大きいのは、従来の会計とクラウド会計では根本的に会計帳簿をどのようなアプローチで作成するかという事になります。

freee にもMF クラウド会計にも共通するのは、外部に存在するデジタルデータをクラウド会計ソフトに取り込むことで、自動で作成できる余地のある会計帳簿は自動作成してしまうという基本発想です。これは、借方貸方に勘定科目や金額を入力し毎月同じ内容の取引を同じ作業で入力していた従来の会計帳簿の作成とは対局にあるものです。

今後、クラウド会計ソフトの普及に伴って会計帳簿の自動作成という考え方は徐々に一般的なっていくと予想されます。会計業界に従事する専門家にとっては、クラウド会計ソフトの操作方法を会得するという以前に、従来の会計とクラウド会計ではその作成アプローチが違うという意識改革がまず必要なのかもしれません。

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